テニス ATP・WTA世界ランキング決め方とポイントの仕組み
テニスのテレビ番組や雑誌で見かける「世界ランキング」。
テニス選手のランキングの決め方はどういう仕組みになっているのでしょうか?
男子は「ATP」、女子は「WTA」という団体が、決まったルールで、大会ごとの獲得ポイントを決めています。
そのポイントを足したり引いたりして、ランキングを決定し、毎週発表しています。
今回はこの「世界ランキング」を決める仕組みについてご説明いたします。
むずかしそうに見えますが、実はそれほどでもありません。
プロテニス選手の「世界ランキング」を決めるポイントの計算の仕組みを理解することで、もっとテニス観戦を楽しむことができるようになると思います。
なお、「世界ランキング」は、シングルスだけでなく、ダブルスにもありますが、今回はシングルスの世界ランキングについてのご説明になります。
この記事の目次
基本的な仕組み
男子選手は「ATPツアー」、女子選手は「WTAツアー」という世界各地で行われている様々なカテゴリーの大会を転戦しています。
先ほどご説明しましたが、世界のプロテニスを運営するのは、男子が「ATP」、女子が「WTA」という団体です。
「ATP」は「男子プロテニス協会(Association of Tennis Professionals)」の略称です。
「WTA」は、「女子テニス協会(Women’s Tennis Association)」の略称です。
この2つの団体が、世界各地で行われる大会の結果をもとに、決まったルールにもとづいて選手たちのランキングを認定しています。
そして、このランキングによって、各選手がエントリーできる大会や、各大会でのシードが決まります。
選手たちは、各大会の成績に応じて獲得したポイントが加算され、その合計ポイントによってランキングされます。
このポイントは大会ごとに決まっていて、大きな大会ほど多くのポイントが獲得できます。
後ほど詳しくご説明しますが、例えば、グランドスラム大会でベスト4であれば720ポイント、ATP500の大会で優勝すると500ポイントなどというふうになります。
ATPのHPで発表される男子の世界ランキングの例(2018/8/6現在のもの)
画像 ATP公式HP
WTAのHPで発表される女子の世界ランキングの例(2018/8/6現在のもの)
画像 WTA公式HP
毎週このような世界ランキングが発表されます。
このランキング決定の基本的な仕組みは男女共通です。
ただ、細部や大会の種類などが異なりますので、男女別にランキングのポイント計算方法を見ていきましょう。
男子ランキングの決め方
男子テニスには「ATPランキング」と「ATPレースランキング」という2つのランキングがあります。
通常、世界ランキングと呼ばれるのは「ATPランキング」です。
2つのランキングは算出対象の集計期間と使われ方が違うだけで、基本的なルールは同じです。
ATPランキング
ATPランキングは、直近52週間(約1年間)に出場した大会での獲得ポイントが高かった上位18大会のポイント合計で決まります。
もう少し正確に言いますと、毎週毎週、直近52週以前のポイントは消失して、52週以内に獲得したポイントの上位18大会のポイント合計が計算されます。
ですから、ポイントは増えるだけでなく、減ることもあります。
例えば、
2017年の全豪オープンで準優勝のラファエル ナダル選手は、そのとき1200ポイントを獲得しましたが、翌2018年の同じ大会ではベスト8にとどまりました。
ベスト8で360ポイントを獲得しましたが、前年の1200ポイントが消滅しましたので、合計すると840ポイント減ってしまいました。
年 | 大会名 | 獲得ポイント | 消失ポイント | 合計ポイント |
2018 | 全豪オープン | 360 | 1200 | -840 |
同じ大会では、昨年よりも良い成績でなければポイントが増えない、という厳しいルールですね。
基本的には「獲得ポイントが高かった上位18大会」が計算の対象になりますが、少しだけ例外があります。
まず、「グランドスラム」と「マスターズ1000(モンテカルロ大会を除く)」の本戦に出場した場合、獲得ポイントが低くても強制的にポイント対象の18大会に含まれてしまいます。
もうひとつの例外は、この後ご説明する「ATPレースランキング」上位8選手によって年末に行われる「ATPワールドツアーファイナルズ」に出場した場合、その獲得ポイントは、特別に「19大会目のポイント」として加算することになっています。
上位選手の特権ですね。
なお、16歳未満の若い選手は年齢により年間に出場できる大会数が制限されています。
ATPレースランキング
「ATPレースランキング」は、その年の年末にロンドンで開催される「ATPワールドツアーファイナルズ」への出場権をかけて競うランキングです。
ATPレースランキングのことを「Race to LONDON」と呼んだりします。
この「ATPワールドツアーファイナルズ」に参加できるのは、「ATPレースランキング」の上位8位までの選手です。
その年のトップ8人がその年の王者をかけて戦う特別の大会です。
この「ATPレースランキング」も基本的に「ATPランキング」と仕組みは一緒です。
違うのは、「ATPランキング」の集計期間が直近52週間なのに対して、「ATPレースランキング」はその年の大会しか加算対象にならないということです。
年始にすべてのポイントがリセットされ、すべての選手が「0」ポイントからスタートします。
先ほどのラファエル ナダルの例で言えば、「全豪オープン」の後に、単に360ポイントが加算されるだけとなります。
「ATPランキング」 集計期間が直近52週間 |
|
「ATPレースランキング」 その年の大会しか加算対象にならない |
年末のシーズン終了時には「ATPランキング」と「ATPレースランキング」の集計期間が同じになるので、順位も同じになります。
「ATPランキング」と「ATPレースランキング」のポイント集計対象期間をまとめると下の図のようになります。
男子の大会のカテゴリーと獲得できるポイント
獲得できるポイントは、シンプルに「大会のカテゴリー」と「何回戦まで進出したか」によって決まります。
まずは男子の大会のカテゴリーについて簡単に説明しておきましょう。
■グランドスラム
全豪・全仏・全英・全米の4大大会。
テニス界の最高峰に位置します。
■ATPワールドツアーファイナルズ
ATPツアー最終戦。
ATPレースランキング上位8名に出場権があります。
■ATPマスターズ1000
ATPツアーにおける最高峰の大会。
優勝者には1000ポイントが与えられます。
2018年は9大会開催予定。
■ATP 500シリーズ
マスターズ1000に次ぐ大会。
優勝者には500ポイントが与えられます。
2018年は13大会開催予定。
日本で行われる「楽天ジャパンオープン」はこのカテゴリーに属します。
■ATP 250シリーズ
ATPツアーとしては最下層の大会、ここまでが「ATPツアー公式戦」。
優勝者には250ポイントが与えられます。
毎年約40大会が開催されています。
■チャレンジャーズ
ATP公式ツアー大会の下にあたる大会。
賞金額やポイントにはバラツキがあります。
■フューチャーズ
男子プロテニスでは最も下の大会。
1998年に創設されたシリーズで、世界各国で数多く開催されています。
グランドスラム大会について、もっと知りたい方はこちらをどうぞ
各カテゴリーで獲得できるポイントをまとめてみました。
- SF:準決勝
- QF:準々決勝
- R16~R128:ベスト16~ベスト128
- Q:予選通過
+Hは、ホスピタリティ(宿泊費や交通費)が支給されることを示します。
チャレンジャーとフューチャーズは賞金総額などで細かく分かれておりますので一部割愛させていただき、主なカテゴリーのみを表示しています。
男子の最新ランキングを確認したい方は、ATPの公式サイトをご覧ください。
https://www.atpworldtour.com/en/rankings
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女子ランキングの決め方
女子テニスにも男子と同じように「WTAツアーランキング」と「WTAレースランキング」の2つのランキングがあります。
通常、世界ランキングと呼ばれるのは「WTAツアーランキング」です。
WTAツアーランキング
女子の「WTAツアーランキング」は男子の「ATPランキング」とほとんど同じです。
直近52週間(約1年間)に出場した大会での獲得ポイントの上位17大会のポイント合計で決まります。
52週間より前のポイントは消失します。
WTAレースランキング
「WTAレースランキング」も男子の「ATPレースランキング」とほとんど同じで、その年に獲得したポイントの合計で順位が決まります。
この「WTAレースランキング」は、基本的に「WTAランキング」と仕組みは一緒ですが、「WTAランキング」の集計期間が直近52週間なのに対して、「WTAレースランキング」はその年の大会しか加算対象にならないということです。
男子の場合は「ATPワールドツアーファイナルズ」への出場権をかけた争いでしたが、女子の場合は「WTAファイナルズ」の出場権をかけて競います。
男子と同じく「WTAツアーランキング」上位8名のみが出場でき、年間女王を決める特別な大会です。
「WTAツアーランキング」と「WTAレースランキング」のポイント集計対象期間をまとめると下の図のようになります。
女子の大会のカテゴリーと獲得できるポイント
獲得できるポイントは、男子と同様に「大会のカテゴリー」と「何回戦まで進出したか」によって決まります。
まずは女子の大会のカテゴリーについて簡単に確認しておきましょう。
■グランドスラム
全豪・全仏・全英・全米の4大大会。
テニス界の最高峰に位置します。
■WTAファイナルズ
WTAツアー最終戦。
WTAレースランキング上位8名に出場権があります。
■WTAプレミア・マンダトリー
年間4回開催されるWTAツアーにおける最高峰の大会です。
開催場所は、インディアンウェルズ(アメリカ)、マイアミ(アメリカ)、マドリード(スペイン)、北京(中国)。
この4大会は、男子のATPマスターズ1000の大会との共催です。
優勝者には1000ポイントが与えられます。
■WTAプレミア5
年間5大会が開催されます。
優勝者には900ポイントが与えられます。
■WTAプレミア
毎年約12大会が開催されています。
優勝者には470ポイントが与えられます。
日本で行われる「東レ・パン・パシフィック・オープン」はこのクラスに属しています。
■WTAエリート・トロフィー
「WTAレースランキング」で上位9位~20位の選手に出場権があります。
■WTAインターナショナル
優勝者には280ポイントが与えられます。
東京で行われる「日本女子オープン」はこのクラスに属しています。
■WTA125Kシリーズ
WTAツアーでは最も下の大会。
優勝者には160ポイントが与えられます。
2018年は10大会が予定されています。
■ITF女子サーキット
WTA(女子テニス協会)ではなく、ITF(国際テニス連盟)が管轄しています。
ですが、大会で獲得したポイントはWTAランキングに組み込まれます。
女子プロテニスでは最も低いクラスに位置します。
ランキングの低い選手はここでポイントを積み重ねてWTA上位大会を目指します。
賞金額やポイントにはバラツキがあります。
各カテゴリーで獲得できるポイントをまとめてみました。
- SF:準決勝
- QF:準々決勝
- R16~R128:ベスト16~ベスト128
- Q:予選通過
+Hは、ホスピタリティ(宿泊費や交通費)が支給されることを示します。
ITF女子サーキットは賞金総額などで細かく分かれておりますので一部割愛させていただき、主なカテゴリーのみを表示しています。
女子の最新ランキングを確認したい方は、WTAの公式サイトをご覧ください。
http://www.wtatennis.com/rankings
ランキング上位選手の出場義務
ランキング上位選手には、出場権やシードなど特別な扱いがある代わりに、果たさなければならない義務があります。
「ATPやWTAが指定する大会への出場義務」です。
男子選手の出場義務
男子の場合は、前年度のATPランキング30位以内の選手は「コミットメントプレーヤー(Commitment Player)」と呼ばれ、以下の大会に出場義務があります。
- グランドスラム4大会すべて
- ATPマスターズ1000のモンテカルロ大会以外の8大会
- ATP500シリーズ13大会のうちの4大会(その内1つは必ず全米オープン以降の大会)
以上の大会を合計すると16大会になります。
(この他、「ATPレースランキング」で上位8名に入った場合には、「ATPツアーファイナル」の出場権を得ると同時に出場義務も生じます。)
この16大会は、その成績にかかわらず、ATPポイントの集計対象である18大会に含まれるというルールとなっています。
例えば、出場義務がある大きな大会を欠場すると、ポイント獲得上位18大会のうちの1大会分は「0」になってしまうという、とても厳しいルールになっています。
とても厳しいルールですが、ATPマスターズ1000の大会についてのみ、出場義務が免除される場合があります。
免除の条件は、
- 通算600試合以上出場(その年の1/1時点)
- 12年間以上のプロ経験
- 31歳以上(その年の1/1時点)
以上1つ満たせば1大会、2つ満たせば2大会、3つ満たせばATPマスターズ1000への出場義務はすべて無くなります。
実績があるベテランプレーヤーに対する配慮なのだと思います。
ロジャー フェデラー選手は、時々出場しない場合があります。
出場しなくてもポイントがあまり減らないのはこの制度を使っていることも一因なのですね。
ちなみに、30名のコミットメントプレーヤーには主に2つの特権が与えられます。
1つは、「その時点のランキングがどれだけ落ちてもATP500の大会で本戦にダイレクトインできる」というものです。
ATPランキングが低いと、普通は予選からの出場となりますがATP500の大会ではこの予選が免除となります。
2つ目は、「ボーナスが支給される」というものです。
さすがに30名全員ではありませんが、ATPマスターズ1000の出場義務のある8大会、または7大会に出場し、年末の時点で12位までに入っているプレーヤーには、その順位に応じてボーナスが出ます。
1位のプレーヤーのボーナスは3億円を超すそうです。
12位のプレーヤーは約1800万円。
コミットメントプレーヤーの出場義務は厳しいですが、その特権も大きいということですね。
女子選手の出場義務
女子の場合は、前年度のWTAランキング10位以内の選手に、男子と同じような出場義務が課せられています。
その大会は、
- グランドスラム4大会すべて
- プレミア・マンダトリーの4大会すべて
- プレミア5の5大会のうちの4大会
この12大会は、その結果にかかわらず、WTAポイントの集計対象である17大会に含まれます。
出場義務がある大会を欠場すると、ポイント獲得上位17大会のうちの1大会分は「0」になってしまいます。男子の場合と同じです。
厳しいですね。
ちなみに、「プレミア・マンダトリー」の「マンダトリー」には「必須」とか「強制」などの意味があります。
さらに、ランキング上位選手は格下の大会には出場できなかったり、18歳未満の選手は年齢によって年間出場できる大会数が制限されるなどの規則もあります。
歴代シングルス世界ランキング1位の選手たち
シングルスで世界ランキング1位になったことがある選手はそう多くはありません。
男子で26人、女子で25人。
歴代で最も長い期間世界ランキング1位にいた選手は誰でしょうか。
男子のトップは、ロジャー フェデラーの310週(2018/6/25時点)。
まだ現役ですのでこれからもこの記録を伸ばしていくことでしょう。
2位はピート サンプラスの286週。
3位はイワン レンドルの270週です。
女子のトップは、シュテフィ グラフの377週。
2位はマルチナ ナブラチロワの332週。
3位はセリーナ ウィリアムズの319週(2018/6/25時点)。
ちなみに、日本人では、男子は錦織 圭の4位(2015/3/2)、女子は伊達 公子の4位(1995/11/13)が最高ランキングです。
まとめ
テニスの世界ランキングは、主観の入る余地のない、とても明確な獲得ポイントにもとづくものです。
そして、前年と同じ大会で前年より結果が悪ければ、ポイントが減ってしまうという、当たり前と言えば当たり前の仕組みで動いています。
数あるスポーツのランキングの中で、最も明快な決め方と言ってもよいでしょう。
プロテニス選手にとって、出場できる大会の権利やシードが決定される「世界ランキング」は生命線です。
上位になればボーナスという特権もあります。
だからこそ「世界ランキング」決定の仕組みは厳しく、かつ公平なものでなくてはならない、ということなのでしょう。
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