テニス「全英オープン」とは?伝統と格式のウィンブルドン。
テニスのグランドスラムのうち、毎年6月後半から7月にかけて開催される「全英オープン」
緑の芝の上で、白いウェアのプレーヤーたちがしのぎを削る「全英オープン」は、4つあるグランドスラム大会の中でも、伝統と格式を誇り、さまざまな独自のルールがある大会です。
今回はこの「全英オープン」について、その歴史やコートサーフェス、独自のルールやトリビアなどをお伝えします。
この記事の目次
全英オープンテニスの歴史
1877年7月、ロンドン郊外にあった「オールイングランド・クローケー・アンド・ローンテニスクラブ」1882年に「オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ」に改称)が第1回大会を開催しました。
世界最古のテニストーナメントで、もちろん4大大会の中でも最も歴史がある大会です。
大会の正式名称は、当初は「The Lawn Tennis Championships on Grass」でした。
この名称が短縮され、現在は「The Championships」と呼ばれています。
全英オープンテニスの会場
コートの特徴
4大大会の中で唯一グラス(天然芝)コートが使用されています。
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グラスコートは、ボールのバウンドが低く滑り球足が速いのでショットがエースになりやすいという特徴があります。
そのため、長身のビッグサーバーに有利なコートと言われています。
ストローク戦が得意な高いランキングの選手が、ランキングの低いビッグサーバーに負けてしまうケースもあります。
全英オープンテニスの約1カ月前に行われる「全仏オープン」はクレーコートで極端に球足が遅いので、選手たちはこの短い期間に「極端に遅いコート」から「極端に速いコート」へのプレースタイルの変更を迫られます。
ところで、ウィンブルドンのセンターコートは「全英オープンの2週間だけしか使われない」ということをご存知ですか。
この2週間のために、16人のスタッフが1年を通して芝の管理を行っています。
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センターコートは、大会終了直後に芝を全てはがしてしまい、土壌を耕してから、新しく種をまいています。つまり、あの芝は毎年新しく植え替えられているのです。
冬は霜や雪から保護するために13ミリに統一。
それから12ミリ、11ミリ……と少しずつ短くしていき、大会の1カ月前から8ミリの長さを維持しています。
芝生の種類は、2001年から、ライグラス(Perennial Ryegrass)100%です。
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この芝へのこだわりは「全英オープン」の発祥にも深く関係しています。
ある日、ウィンブルドン地区にあった会員制のテニス・クラブが利用する芝コートの芝刈り機が故障。
修理費を捻出するという目的で1877年に初めて開催された大会が、現在の「全英オープン」です。
「全英オープン」のために芝コートがあるのではなく、芝を美しく管理するためにこの大会が始まったのですね。
会場へのアクセス
「全英オープン」が行われるウィンブルドンは、ロンドンの中心部から南西に約10kmのところにある普段はとても静かな町です。
ウィンブルドン会場の最寄駅は、「サウスフィールズ」(Southfields)か「ウィンブルドン」(Wimbledon)です。
ウィンブルドン駅は、地下鉄、電車、そしてトラムが発着する駅。
電車の場合は、ロンドン中心部なら、ウォータールー駅(London Waterloo)からサウスウエストラインに乗車。乗車時間は20分ぐらい。
画像 Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.
ウィンブルドン駅から会場までは、徒歩でおよそ20分です。
会場の概要
ウィンブルドンテニスの公式サイトによると、テニスコートの総数は41。
試合に使われるコートは、そのうちの19面。ほかに練習用コートが22面用意されています。もちろんこれらはすべて芝のコート。
画像 全英オープン公式HP
このコート数41は、4大大会の中でも最も多いコート数です。
(全米33、全仏24、全豪30)
試合用のコートは、センターコートに加えてNo.1~19コートの全19面です。
なぜ20面でなく19面なのかというと、No.13コートがないからなのです。
実は、ウィンブルドンにはこの芝のコート以外にクレーコート8面、ハードコート5面があるそうです。
芝コートが使えるのは、5月から9月の間のみ。1年中使えるわけではありませんからね。
◆センターコートに愛称がない
4大大会のセンターコートにはそれぞれ独自の名称がありますね。
全豪なら「ロッド・レーバー・アリーナ」、全仏は「フィリップ・シャトリエ・コート」、全米は「アーサー・アッシュ・スタジアム」。
ところがウィンブルドンのセンターコートには愛称がありません。単に「センターコート」。
つまりセンターコートといえばウィンブルドンの「センターコート」を指すという強い誇りと自負の表れなのかもしれません。
そういえば「全英オープンテニス」の正式な英語名称が、単に「The Championships」ですね。
この「センターコート」は1922以来伝統的な姿を保っていましたが、2009年、開閉式屋根を備えた新コートに生まれ変わりました。収容人数は15,000。
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ちなみに、No.1コートも単に「No.1コート」。
収容人数は11,000で、こちらも2019年には開閉式の屋根が完成する予定です。
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◆マレー・マウント (ヘンマン・ヒル)
画像 メランコリア
会場の1番ゲートからゆるやかな坂を上っていくと、すぐに見えてくるのが大スクリーンを備えた「アオランギ広場」。
通称「マレー・マウント」。No.1コートの隣です。
センターコートやNo.1コートのチケットを持っていないたくさんの人々が、ここに座ってのんびりスクリーン観戦しています。
ここは以前「ヘンマン・ヒル」と呼ばれていました。
地元イギリスの1990年代後半~2000年代の名選手、ティム ヘンマンの名前が付けられていたのです。
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不思議なことに、「全英オープン」では1936年にフレッド ペリーが優勝して以来、イギリス人の男子シングルス優勝者が出ていなかったので、彼に大きな期待がかかっていました。残念ながら優勝はできませんでしたが、当時はイギリスの国民的ヒーローでした。
2013年の「全英オープン」でイギリス人として77年振りにアンディ マレーが優勝したころから「マレー・マウント」と呼ばれるようになったようです。
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テニスが上達したい時に読むのはこちら>>>全英オープンテニス大会の特徴
サーブ&ボレーの得意な選手に有利
グラスコートは、ボールのバウンドが低く滑り、球足が速いのでショットがエースになりやすいという特徴があります。
サーブ&ボレーの得意な選手に有利で、ストローカーには不向きなコートと言えるでしょう。
実際、サーブ&ボレーが得意なロジャー フェデラーは4大大会優勝20回のうち実に8回がこの「全英オープン」です。
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フェデラーの通算8回の優勝回数は「全英オープン」歴代最多。
サーブ&ボレーが得意なオールラウンドプレーヤーのピート サンプラスも、4大大会優勝14回のうち8回がこの「全英オープン」。
しかし、サンプラスはクレーコートの「全仏オープン」では一度も優勝できませんでした。
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一方、クレーコートでは無敵を誇るナダル。
4大大会優勝は17回ですが、全英オープンでは2回の優勝です。2010年の優勝以来優勝から遠ざかっています。
2001年の大会ではクロアチアのビッグサーバー、当時世界ランキング125位だったゴラン イワニセビッチが、並み居る強豪を連破し優勝を飾りました。
全英オープンだけの特別ルール
「全英オープン」以外のグランドスラムは全豪・全米・全仏とありますが、この3大会はすべて運営がITF(インターナショナル・テニス・フェデレーション)で開催国の協会が主催しています。
それに対し、全英だけは「オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ」という民間クラブが運営を行っています。
ということで、クラブ主催の大会のために「全英オープン」にはいくつかの独自のルールがあります。
◆ウェアは「白」で統一
みなさんよくご存じの特別ルールが「ウェアは白のみ」ということでしょう。
身につけるものすべて(ウェア、リストバンド、帽子、ソックス、シューズなどの小物に至るまで)「白」を着用することが義務付けられています。
画像 インスタグラム
これは1884年の女子シングルス初代優勝者であるモード・ワトソン(イングランド)が白で揃えたウェアを着用していたからだといわれています。
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試合だけでなく練習の際にも白いウェアを着用する事が義務付けられている事も伝統となっています。
◆独自のシード順の決め方
本来、テニストーナメントのシード順はATPやWTAランキングの高い順番に決めらます。これはグランドスラム大会でも例で外はなく、共通のルールとして設定されていますが「全英オープン」だけはルールが異なっています。
◎男子のシード順
最新の世界ランキングのポイントに、過去12カ月間に芝のコートで行なわれた大会で獲得したポイントの100%を加え、さらにその前の12カ月間に芝のコートで行なわれた大会で獲得したポイントの75%を加えます。
この3つのポイント合計でシード順が自動的に決まります。
そのため他3大会にあるシード委員会はありません。
◎女子のシード順
基本的にWTAランキングの高い順となっています。
シード委員会が召集され、特定の選手について「バランスの取れたシードを実現するために芝のコートでの成績を加味すべき」という意見が出たときにはシード順位を調整します
シンプルに言えば「ランキングポイント+芝大会ポイント」の高い選手からシード順を決めます。
このように独特なシード順位を採用しているので他の大会ではあまり見られない対戦が行われる可能性もあります。
「全英オープン」だからこそ実現する対戦は、この大会の楽しみのひとつでもあります。
ウィンブルドントリビア
ここで、ウィンブルドントリビアを2つほど。
◆ウィンブルドンのロゴ。
このロゴ。さぞや古いものかと思いきや…
実は1980年代になってから使われるようになったものです。
1970年代からアメリカでのテニスライセンシービジネスが盛んになり、その時に制定したロゴなのだそうです。
そしてさらに、
このデザインは日本人デザイナーの手によるものなのです。
その方は、佐藤忠敏さん。30歳の時にデザインしたものだそうです。
佐藤さんによれば「芝コートの緑、白線の白、伝統を表す紫紺」で表現したということです。
佐藤さんは「とんがりコーン」や「サランラップ」「Rootsコーヒー」などのパッケージもデザインした日本屈指のデザイナーで、商品開発やネーミングなど幅広い分野で活躍されるクリエイターです。
トリビアをもうひとつ。
◆トロフィーのてっぺんにあるのは?
写真をご覧ください。
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写真、向かって左が男子の優勝トロフィーです。
てっぺんについているのは間違いなく「パイナップル」ですね。
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なぜパイナップルなのでしょうか。
このトロフィーが作られた1877年当時、パイナップルの栽培はとても難しく、したがってとても貴重なもので、お祝いの意味を表すシンボリックなものだったからだそうです。
女子の優勝者には「ヴィーナス・ローズウォーター・ディッシュ」と呼ばれるスターリングシルバー製のお皿が授与されます。
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全英オープンテニス 優勝賞金
2018年のシングルス優勝者の賞金は、男女ともに225万ポンド(約3億3750万円)です。
賞金は、勝者だけに与えられるわけではなく、1回戦負けを喫した選手に対しても支払われます。
2018年の準優勝以下の賞金は未発表ですが、2017年は3万5000ポンド(490万円)が支給されました。
つまり一試合を行っただけで、負けてしまっても英国人の平均年収である2万6500ポンドを超える賞金を手にすることになります。
2017年のダブルスの優勝者には一人につき34万ポンド、混合ダブルスは10万ポンドでした。
全英オープンテニス 過去のシングルス優勝者
男子優勝者(2008年~2018年)
年 | 選手名 | 国 |
2008 | ラファエル ナダル | スペイン |
2009 | ロジャー フェデラー | スイス |
2010 | ラファエル ナダル | スペイン |
2011 | ノバク ジョコビッチ | セルビア |
2012 | ロジャー フェデラー | スイス |
2013 | アンディ マレー | イギリス |
2014 | ノバク ジョコビッチ | セルビア |
2015 | ノバク ジョコビッチ | セルビア |
2016 | アンディ マレー | イギリス |
2017 | ロジャー フェデラー | スイス |
2018 | ノバク ジョコビッチ | セルビア |
女子優勝者(2008年~2018年)
年 | 選手名 | 国 |
2008 | ビーナス ウィリアムズ | アメリカ |
2009 | セリーナ ウィリアムズ | アメリカ |
2010 | セリーナ ウィリアムズ | アメリカ |
2011 | ペトラ クビトバ | チェコ |
2012 | セリーナ ウィリアムズ | アメリカ |
2013 | マリオン バルトリ | フランス |
2014 | ペトラ クビトバ | チェコ |
2015 | セリーナ ウィリアムズ | アメリカ |
2016 | セリーナ ウィリアムズ | アメリカ |
2017 | ガルビネ ムグルッサ | スペイン |
2018 | アンジェリック ケルバー | ドイツ |
大会公式HP
◆公式HP
http://www.wimbledon.com/index.html
◆公式インスタグラム
https://www.instagram.com/wimbledon/?hl=ja
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まとめ
「全英オープン」は歴史が長いだけあって、格式が高く、いくつもの独自ルールがあります。
ウェアは厳格に「白」だけですが、女子選手は「白」を守りながらもそれぞれに自分のファッションセンスを生かしたウェアで登場します。
それを見るのも楽しいですね。
芝のコートならではのビッグサーバーの活躍も期待できます。
ロンドンは、日本とは8時間の時差があって、期間中は睡眠不足になりそうですが、みなさんがんばって観戦しましょう。
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